* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


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雨のシーン本番中です、前回の仕掛けの他に携帯用の噴霧器も使っています。


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セット全体に水を送るため消火栓から水を供給しています。これは分岐水栓。




Roll 245 撮影機材と撮影効果 <メリエスの時代 その5>

 多重露光の話の続きとして以前私が行った撮影の話をしたい。
 前々回述べたメリエスの「一人オーケストラ」がどれだけ面倒な撮影であったか理解する手だてになるだろう。


 その時我々に要求されていたのは「5機の戦闘機が編隊飛行しており、それをカメラは横からとらえている。戦闘機は手前から次々とバンク(翼を傾ける)して下に切れて行く」というものだ。

 ミニチュアは1機しかないので合成するしかない。普通ならフレームいっぱいにミニチュアをとらえておき、操演部がバンクさせるだけである。

 それを手前から奥に少しづつ小さくなるよう合成して編隊をつくり、更に一機づつバンクにあわせてフレームアウトさせるのは後処理班の役目になる。

 ところが監督は生合成で一発撮りをすると言う。背景が夜空で真っ暗だから可能な筈だと。
 予算が無いわけではなかったので「たまにはローテクをやってみたかった」だけじゃないかと思うのだが、ともかく面倒なカットに挑戦することになった。


 ミニチュアの尾部からはシャフトが伸びていてモーターにつながっている(モーターが回ると戦闘機がバンクする)これを黒バックの前に横向きに置く。
 そしてカメラマンは完成図を予想して1機目の位置を決定する。

 そして最初の撮影。
 カチンコと同時にスクリプターがカウントを開始。1・2・3・4・5秒で、私がモーターをスイッチON、戦闘機が手前にバンクする。
 同時にカメラマンはカメラをパンアップ(映っているものは下へ)更にズームアップ(映っているものは大きく)
 パンとズームの併用で戦闘機が手前下へ降下して行ったように見えるのだ。

 フレームアウトしたところでカット。

 ここでフィルムを巻き戻す。
 巻き戻すとは言っても、時間を計っただけでは正確な位置まで戻らないので一旦全部巻き取ってしまい、撮影助手が再度フィルムをセットする(正確を期すためフィルムに目印が書いてある)

 そして2機目の撮影だ、カメラマンは1機目の記憶をたよりに2機目の位置を調整する。
 (今ならモニター映像が外部TVに出力されているので画面構成するのは簡単だが、その時はカメラマンの記憶力だけがたよりだった)

 2回目のスタート。1・2・3・4・5・今度は6秒でバンク開始。それをきっかけにカメラズーム&パンアップ。
 1機目は5秒で降下を始めているので、後を追いかける形の2機目の映像がだぶることはない・・筈である・・バンクのタイミングとカメラマンのパンのスピードに間違いがなければ。

 再び巻き戻して、フィルムをセットし、位置を決め・・・これを5回繰り返したわけだ。

 戦闘機の降下はバンクをきっかけに行われているので私はそのタイミングとスピードを間違えるわけにはいかない。フィルムをセットする撮影助手もスクリプターも緊張するだろう。まあ一番負担が大きいのはカメラマンなわけだが。

 特撮に慣れたスタッフが揃っていて、5機の飛行機がバンクするだけでもこれはけっこうクリティカルなミッションである。

 7人のメリエスが登場し、それぞれが別な演技をする100年前の作品「一人オーケストラ」
 いったいどうやって位置を合わせ、タイミングを取っていたのだろうか?

 慣れたスタッフなど居ようもない頃、技術の発案者にして、監督であり主演であるメリエスが多重露光にどれだけ苦労したかは今からでは想像も付かない。

続く


2006年11月08日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部