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特撮プールの「波起こし」も操演部の仕事です。これも要ハイスピード撮影。状況によって最適なコマ数は変わります


* 連載フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 300 <フィルムとコマの話 その53> スローモーションで見る積み木遊び

 前回、我々の常識として大きいものは重く、重いものは急激に速度変化しない、と述べた。同様に重い物は早く動かないという認識も存在する。

 そこで怪獣である。我々には巨大な生物は機敏に動けないという思いこみがある「大男総身に知恵が回りかね」というやつだ。

 だから怪獣をテキパキ歩かせてしまうと大きく見えない。巨大感を出したければゆっくり歩かせる必要があるわけだ。
 ゆっくり歩かせるならそれを芝居で行うよりハイスピード撮影によって遅くしたほうが良いのは前回述べたとおりである。

 前回、怪獣を撮るときは2倍速程度でカメラが回っていることが多いと述べた。それは「動きの角を取る」ためでもあるがゆっくり歩かせるためでもあるのだ。

 しかし、実のところ普通の歩きを2倍速撮影してしまうと、それがいくら怪獣でも動きがスローすぎる。
 ならば遅くなりすぎないように、たとえば1.5倍速で撮ればよいかというとそういうものでもない。動きの角を取る効果を考えればカメラのスピードはなるべく早いほうがいいからだ。

 そこでスーツアクターに早足で歩いてもらったものを2倍速で撮影する。
 つまり芝居で速く動いたものをカメラで遅くし、結果として「ノーマルより遅く、1/2スローより早い」歩きにするわけだ。
 実際の撮影ではコマ数は2倍固定とはかぎらない。あるコマ数のときどんなテンポで歩けばよいか判断するには多くの経験が必要である。

 ビル壊しの時はまた事情が変わる。

 前々回、1/24スケールのビル壊しは5倍速が最適であると述べた。しかしいくらビルの破片が正しい速度で落下しようと、当の怪獣がハエの止まるような速度で動いていたのでは意味がない。
 といって練習を積んだスーツアクターといえど重い着ぐるみを着て5倍速で動くのは不可能だ。

 だから怪獣によるミニチュア破壊の際は若干コマ数を抑え、3〜4倍速でカメラを回すことが多い*
 しかしそれでも怪獣は素早い芝居が要求される。だから破壊カットにおける怪獣はセカセカと動き、いそいでビルを壊していくのだ。まさしく子供の積み木遊びのようである。

 この積み木遊びを見てしまったあとで、それがスクリーン上ではどんな迫力ある映像になっているのか想像するのはきわめて難しい。
 しかし現場ではそれが成功なのか失敗なのか、失敗だとすればどういうリカバリーが可能なのかを瞬時に判断しなくてはならない。

 だから特撮マンには豊富な経験が必要なのである。最後に物を言うのは「かつて○倍速で撮った時、あんな風に見えた物は、スクリーンではこんな風に見えていた」という自分自身のデータベースなのだ。

 たよりになるのは勘と経験、ハイスピード撮影が難しい理由は実はそこにある。


*注:
1mの高さから物が落ちたとき、それがどう見えるか人はよく知っている、と以前書いた。
逆にいえば30mの高さから物が落ちる様子を見たことのある人間はほとんどいない。だから多少のウソは許されるのだ。
怪獣が手で(足で)ビルを壊すのではなく、光線などを発射し離れたところからビルを壊すこともある(これを現場では「離れ技で壊す」などという)。その際には最適なコマ数以上の速度でカメラを回すことも出来る。原理的に言えばより速く回せばよりスケール感が増すことになる。



※<フィルムとコマの話>を最初から読みたい方は →こちら 


2008年03月19日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部