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素材屋「走る戦車が巻き上げるホコリはいかがですかー」


* 連載フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 307 <フィルムとコマの話 その60> コンビニを破壊せよ

 ある映画で怪獣がコンビニエンスストアを破壊するというカットがあった。
 それだけならよくある話だが、監督の構想はこれを内引き(うちびき=室内にカメラがある)で撮るというものだった。

 これを行うにはコンビニ店内をミニチュアで作らなければならない。知ってのとおりコンビニの店内は種々雑多な商品で埋め尽くされている。これをすべて1/24でミニチュア化するのは大変な作業だ。(袋菓子や雑誌などは一片約1センチで作ることになる)

 こういうとき特撮屋が思うことは、ミニチュアをある程度大きなサイズで製作し(たとえば1/8)、踏み込んでくる怪獣の足をそれに合わせたサイズ(着ぐるみの3倍)で特注し、操演部がその足を店内につっこませればいいのではないかということだ。

 なにしろこの場合、ミニチュアはカメラのすぐ前に並ぶので精巧に作る必要がある。作りやすいサイズで作ったほうが結果もよく、時間も節約できる筈なのだ。

 しかし監督の希望は、店内からガラス越しに外を見ると怪獣が迫ってくる、どんどん近づいて来たとみるや、そのまま店内に踏み込んでくるというものだ。したがって怪獣は着ぐるみでいくしかなく、ミニチュアは着ぐるみ合わせの1/24で作るしかない。

 美術部的に大変なカットになるがこれだけに人的資源を集中するわけにはいかないので、ベテランの女性美術スタッフ1名がこれの専任となりほぼそれだけに取り組んだ。

 撮影が進む中、スタジオの一角で彼女はもくもくとコンビニのセットを組み上げていた。そしていよいよ撮影当日。
 完成したコンビニの天井は石膏、窓はプレパラート用極薄ガラス。操演部は天井が壊れたときに火花を降らせるくらいしかすることはない。
 あとは怪獣のスーツアクターにおまかせだが、このカットの主役が精巧無比なミニチュアであるのは言うまでもない。

 当然これはハリウッド方式(前回参照)で行われることとなり、口でリハーサルが行われた。

■監督 「用意」
■撮影助手 「ウィ〜〜ン」
 しばらくの間「上がった!」
■監督 「スタート」
■カチンコ 「カチン」
■怪獣 「ドスドスドス」(歩いているつもり)
「バキバキバキ」(店内を壊しているつもり)
■私 「バチバチバチ」(火花のつもり)
■監督 「カット」

 という調子である。

 いよいよ本番。しかしここでミスが出た。
 監督が「用意」と言ったあと、いつもの日本方式ですぐ「スタート」と言ってしまったのだ。

「用意、スタート」をそれまでに何千何万となく言っていたため(映画1本にカットが300あり、1カットにつき5回これを言うなら一本1,500回である)そのタイミングを体が覚えてしまって反射的に口をついてしまったものであろう。

 ここはそもそも慣れ親しんだ「用意」ではなく「カメラ」と言うべきだったのだが、あとの祭り。

 「スタート」を聞いた助監督はカチンコを打ってしまう。カチンコを打たれれば役者は即座に反応する。これは背後に立った人間を反射的に攻撃するゴルゴ13のような体に染みついた行動だ。

 ハイスピード撮影であるため、怪獣は出来る限りの早足でコンビニに接近し、あっというまに店内を踏み荒らし、私は火花を散らした。

 「上がった!」という声が聞こえたのはその後である。


2008年07月02日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部