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素材屋「怪獣が地面を踏みつけたとき巻き上げるホコリはいかがですかー」


* 連載フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 308 <フィルムとコマの話 その61> 天守閣を爆破せよ

 ハイスピード撮影とは一瞬のうちに起こったことを引き延ばして見せるテクニックである。
 思うのだが、この引き延ばされた時間を意志的にコントロールしようと試みるのは特撮映画だけではないだろうか。

 3回ほど前、世界初のハイスピードカメラは電話交換器(リレー)の不具合を調べるために開発されたと書いた。ハイスピード撮影はもともと研究・分析の用途に用いられたものなのだ。

 あたりまえだがこうした用途において被写体は撮る側の都合など考慮しない。そして撮る側は起こったことをスローモーションで見てみたいだけなのだ。
 ハイスピードカメラが映画に導入された後も多くはそういった使用方法が主であったように思う。

 たとえばサム・ペキンパーである、ペキンパーはハイスピードカメラを駆使した独特の映像表現で有名だが、それはバイオレンスシーンをスローで見せることにより今までにないインパクトを観客に与えたということであって、画面に起こっていることはそれまでもあったアクションである。
 見ている観客もそれが川に落ちる馬であり、撃たれて倒れる人のスローモーションであることは承知で見ている。それは今までにない独特の映像表現ではあったが、ハイスピード撮影の為の特別な仕掛けがあったわけではないということだ。

 特撮映画におけるハイスピード撮影はそうではない。それはそもそも「スローモーション(実際に起こったことをゆっくり見せています)」ではない。
 それはその手法によって別な世界を表現するためのものなのである。つまり映写した時のスピードがリアルに感じられなくてはいけないということだ。

 私はそれを駈け出しの頃実感した。ある時代劇のクライマックス、城の天守閣が中に仕込まれた火薬によって吹き飛ぶというカットの撮影だった。

 オール木製のリアルなミニチュアがオープンセットに組まれた。
 山城という設定なのでそれほど規模は大きくないが、スケールが1/10という縮尺率であったため城の高さは3メートルほどもあったろうか。

 我々操演部は半日がかりでその天守部分に20発の火薬を仕込んだ。その火薬には一個一個独立した点火コードが付けられ、シャミセンという連続発火装置につながれていた。

 撮影開始、カメラは当然フォトソニック、12倍速だった。
 シャミセンは操演部チーフが握る。私はハイスピード撮影は初めてという新人でありこの先輩の手元を注視していた。

 「よーい、スタート」
 「カチン」

 先輩はシャミセンを一気に引ききった。
 シャミセンとは金属のターミナルが並んでいて、手に持った「引き棒」をカチカチと接触させていく仕掛けである。ターミナル一個につき火薬が一個発火するのだ。

 この時はそのカチカチが「ジャッ!」という一個の音に聞こえるほど速かった。
 当然火薬もそのタイミングで爆発し、見た目は一気の爆発にしか見えなかった。
 私は「20個わざわざ回路分けして仕込んだのに、結局一気に爆発させたんじゃ意味ないじゃないか」と思った。

 もちろんそれはまちがっていた。

 続く。


2008年07月16日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部