* 連載フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


写真
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業務用35ミリ映写機のアパチャーゲート付近
スプロケットやテンションローラーがいっぱいでいかにもメカニカル





Roll 320 <フィルムとコマの話 その73> 再びラッシュで勝負

 一人でモーションコントロールに取り組むこと1ヶ月、ついにシステムは完成した。

 今ならスライドパック(精密工作機械用のレール)を使用する移動車だが、手押し用の移動車にステッピングモーターを乗せただけのものだった。

 駆動は、今ならタイミングベルト(歯付きのベルト)かラックアンドピニオン(金属のギア)を使用するところだが、ピアノ線をプーリーで巻き取る仕掛けだった。

 カメラ台も、パン・ティルトをハンドルで行うタイプのカメラ台を改造したものだった。(レンタル機器屋から借りてきたので加工するわけにはいかず、既存のネジ穴を利用してモーターを取り付けたのだ)

 まるでT型フォードかライト兄弟の複葉機である。

 はじめての事なので別セットで準備させてくれと念を押したにもかかわらず、演出部の陰謀で(スケジュールの都合で)モーションコントロール待ちになり、スタッフ全員が手を止めて待つというプレッシャーをかけてくれたのだがともかくそれは動いた。


 最初はレールの先に玉を置き、光のリングを撮る。

 スイッチオンで移動車が発進。カメラは左右に揺れながら玉に近づく。寄り切ったところでカット。

 移動車とカメラをスタート位置に戻して、玉があった場所に宇宙人の作り物を置く。

 ライトチェンジの間に撮影部がフィルムを巻き戻す。背景が黒なのを利用してリングと宇宙人2重露光してしまおうという作戦なのだ。

(別々に撮ったフィルムを後で合成するならタイミングがずれても調整可能だが、これはごまかしがきかない。なぜ初挑戦の仕掛けでこうもチャレンジーなことをやりたがるのか)

 そして宇宙人の撮影、カメラは移動し左右に揺れる、見たところでは同じ動きをしている・・・ ように見える。

 ともあれ丸1日を費やしてモーションコントロール撮影は終了した。


 ラッシュが上がってきたのは、翌日の夕方である。「晩メシ後、試写室にて昨日のラッシュ見ます」と声がかかる、晩メシの味などわからなかった。

 それゆえ試写室に向かう途中お腹が痛くなったので「これは弁当にあたった」と思ったのだ。

 「何がいたんでいたんだろうか」と思いつつ回りを見るが皆平気な顔をしている。自分だけセンシティブなのだろうか、しかしモーションコントロールの結果を見ないではいられない。

 移動車を駆動しているモーターがパワー不足でカメラマンが乗れず、撮影は無人で行われた。つまり「このカットを見た者はまだ誰もいない」のだ。

 私はよろよろと試写室に入り、椅子にへたりこんだ。

 そしてラッシュ開始。光輝くリングは絞りとフィルターの効果がよくラップとは思えない美しさである。そしてその中心に浮かぶ神秘的な宇宙人の姿。

 そこへカメラが寄っていく。右に2回、左に2回、画面が揺れる。リングと宇宙人の動きは同時に撮影したとしか思えないほどシンクロしている。

 成功だ!

 試写室のあかりが灯ると、監督、カメラマン、うちのボスがよくやったと声をかけてくれた。気がつくとお腹の痛みは消え失せていた。

 「・・・そのとき私の胃はキリキリと痛んだ」
という文章を私はそれまで数多くの小説で読んでいた。しかし、それはなにか比喩的な表現のように思っていたのだ。

 「胃ってほんとうに痛むんだ」と私は初めて認識したのだった。


 試写室とはかつてそのような場所であったのだ。


2009年01月21日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部