* 連載フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


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今日も今日とてオープンで人吊り
A点からB点へ飛んで行くというカットなので、高所作業車を2台呼んでいます





Roll 323 <フィルムとコマの話 その76> 操演日記

***6月20日(土曜)***

 東横店内部に筒に入れたナパームが6本、駅前広場にベタ置きのナパームが16個、全部でガソリン20リットルの大爆発である。もちろん一発必中、失敗しても絶対にリテイクは不可能である。しつこく配線を確認する。このプレッシャーは助手連には理解不能だろうと思うので自分で全て見直す。

 シャミセンを前に、イメージトレーニングを繰り返す。
 曰く

「東横店内部の3発をまず一気にひく、炎が長く延びるようならそれをじっくり見せるために少し間を取る、そうでなければ間延びしないよう即座に駅前広場の16発に移る、これは単発のプラズマ火球の想定なのだからカメラに向かって爆発が迫ってくるように見えてはいけない、炎の中からつぎの炎が出てくるようなタイミングで引かなくてはならない」

 それらを秒240コマ(10倍速のハイスピート撮影)で行うべく頭の中で何度もイメージする。

 いよいよ「本番行きます」の声がかる、緊張感が高まる、意識が異常にクリアになる、「カメラスタート」の声がかかる、フォトソニックがうなりをあげて回転を始める。解像度の上がっている頭ではそれが無限に長く感じられる、「上がった!」と撮影助手が叫ぶ。
 
あとは俺の腕ひとつだと瞬間思う
 
まず合成用に一拍あける
 
ひとつ
 
つぎは3発一気だ、あせって4発目を引かないように注意しろ
 
ドカン
 
窓から炎が吹き出す
 
成功だ
 
思ったよりなお炎の足が長い、予定よりほんのわずか後を遅らせよう
 
炎の行き足がとまった
 
次だ
 
早からず遅からず10倍速で16発をなめらかにひけ
 
ドカドカドカドカン
 
うまくいった!

 というようなことをわずか2秒たらずの間に考えていると言ったら人は信用しないと思うのだけれど全て本当の事なのです。


***


 以上は『ガメラ3-邪神覚醒-』(1999年/東宝)撮影時に公開していた私の「操演日記」*である。
 撮影当日に書いているため妙なテンションになっているがリアルな感触を伝えているのではないだろうか。

 新米の時「一気と見えた爆発さえ間延びして見える12倍速の世界。この中でいったいどうやって火薬に芝居をさせたらいいのだろうか」Roll 309と思っていた操演屋も場数を踏み、10倍の撮影でも火薬に芝居を付けられるようになったというわけだ。

 さてここで言いたいのはフォトソニックが決められた速度まで加速するには時間がかかるということだ。

 最高12倍速で動作するこのカメラは1000フィートフィルム(フィルムとして一番長い)を1分たらずで消費してしまうのだが、その速度に達するまでに10秒前後を要する。
 そして「壊れてるんじゃないのか、これでいいのか?」と思わせるような轟音を発生する。

 もちろんその加速中といえどフィルムは消費されていく。だから定速に達するのをジリジリと待つ操演技師にかかるプレッシャーは並ではない。
 それは緊急着陸を試みる機長が足下を過ぎていく滑走路を見て、早く着地しなくては貴重な滑走路が尽きてしまう、と焦るような感覚だろうか(そうか?)。

 まあ操演技師のプレッシャーについてはこの際どうでもいいが、お話したいのはこの無駄に過ぎ去るフィルムのことだ。

 前回、ムービーカメラのシャッター速度はコマ数と連動していると述べた。つまり定速に達する前、フィルム走行速度が遅い時はシャッター速度も遅くなっている。

 しかし絞りは最高速に合わせて調整されている。だからシャッター速度が遅くなればその部分は露出オーバーとなる。

 それが何を意味するかと言うと、ハイスピード撮影されたフィルムはその「本番」部分の前に長~い露出オーバー部分がついているということなのだ。

 続く。



根岸さんのマニアックな「操演日記」をもっと読みたい! という方は・・・
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2009年03月04日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部